NEWS お知らせ
2023.5.6 当院は精子の選別にこだわった医療を提供します。
当院では精子のDNA損傷による胚発生障害や複数回の着床不全、反復流産に対し、有効な先進医療の技術を提供しています。
自然妊娠では受精能力が最も高く、胚の発達をサポートするための最良の機能を備えた精子のみが卵管を通じて選択されて卵子に入り受精します。
射精後の精液に DNA 損傷を受けた精子が高い割合で存在する場合には胚発生不良になることや、流産の原因となる可能性があります。
精子のDNA損傷の原因は酸化ストレスによるもので、ライフスタイルや環境(喫煙、放射線、化学療法、熱曝露、投薬)などが影響を及ぼしますが、卵子によるある程度修復されると考えられています。
しかしその修復機構は加齢により低下します。パートナーの精子のDNA損傷が多い場合(DFI30%以上)でも40歳以下の女性との顕微授精では成績に影響はありませんが、40歳を超える女性との顕微授精ではDNA損傷が多い精子との顕微授精で、胚発生率、妊娠率が低下し流産率が増加するという報告があります。
当院では精子DNA損傷による胚発生障害や複数回の着床不全、反復流産に対し、先進医療として「ヒアルロン酸を用いた 生理学的精子選択術(PICSI)」、「膜構造を用いた 生理学的精子選択術(マイクロ流体技術を 用いた精子選別)」を採用しています。
PICSIは成熟した精子がヒアルロン酸との相互作用により表面に結合する性質を利用した精子選択方法です。成熟した精子はDNA損傷が少ないと言われています。
また、「マイクロ流体技術を 用いた精子選別」は精子が流体の流れに逆らって泳ぐ性質 (レオキタシス)を利用した精子選別方です。自然の受精では、生物学的に精子は女性の生殖器系の可変流体環境を泳ぎますが、泳ぐことができない異常な精子は受精する場、つまり卵管には到達できません。この性質を利用しDNA損傷が少ない精子を選別できる方法です。また通常の精子調整で行う、連続遠心分離による精子の反復洗浄は活性酸素(ROS)の生成に関連し、密度勾配遠心分離による標準的な精液処理も、DNAの完全性の低下と関連があるとされていますが、これらを行わずに良好な精子を選別できるため、生殖補助医療の成績上昇が期待されている技術です。
これらの精子選別技術は茨城県内では2023年5月現在当院でしか施行はできません。男性因子による生殖補助医療において良好な胚ができない方や、反復して着床不全や流産を起こす患者様には推奨できる技術ですので、相談の上で提供させていただきます。
参考文献
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